楽典(和音までの準備)

1:長音階の構造

全,全,半,全,全,全,半…① の関係.

ドレミファソラシドがこれにあたり,ハ長調になる.

また,これらの音のいずれか1つを半音上げた時再び①の関係になるのは,

レ,ミ,ソ,ラ,シを半音上げてしまうと全音+半音の音程になる部分があり不適で,

ドを半音あげてしまうと半,全,半,全,全,全,全という関係になるが,これは長音階でない.

ファを半音あげると,全,全,全,半,全,全,半という関係になり,ソを主音と見なせば全,全,半,全,全,全,半という関係になっており,これは長音階である.つまりファを半音あげたとき,ソを主音として長音階の関係になるので,ト長調となる.

以上の考察は階名によらない.つまり,全,全,全,半,全,全,半という関係になっているとき,主音に対して4度の関係にある音を半音上げることで,5度の関係にある音を主音とする長調とすることができる.

したがって,ハ長調を基準にドレミファソラシに順に0,1,2,3,4,5,6という数字を割り当てる時,調号として#がn個付いているならば,4nを7で割った余りに対応する音が,その調号のときの長調としての主音である.実際,0(ハ長調),4(ト長調),1(ニ長調),5(イ長調),2(ホ長調),6(ロ長調),3(嬰ヘ長調),0(嬰ハ長調)となる.

また,もっとも右側についている#に対し2度上の関係にある音が主音の長調とも見なせる.

同様に半音下げるケースも考えてみよう.

まず,ファ,ドは半音下げると,ユニゾンの関係になってしまい不適.

レ,ソ,ラも半音下げると,全+半の音程になる部分があり不適なので,ミ,シに限られるが,ミの場合,全,半,全,全,全,全,半となり,長音階にならない.

シの場合だと,全,全,半,全,全,半,全となり,ファを主音と見なせば,全,全,半,全,全,全,半という関係になり長音階の関係になるので,ヘ長調となる.

これも階名によらないので,主音に対して7度の関係にある音を半音下げることによって,4度の関係にある音を主音とする長調とできる.よって同様の考えにより,♭がn個ついているとき,3nを7で割った余りに対応する音が,その調号の時の長調としての主音である.実際,0(ハ長調),3(ヘ長調),6(変ロ長調),2(変ホ長調),5(変イ長調),1(変ニ長調),4(変ト長調),0(変ハ長調)

また,もっとも右側についている♭に対し,4度下の関係にある音が主音の長調とも見なせる.

 

2:短音階の構造

以下は自然短音階(全,半,全,全,半,全,全)で考える.

これはその調号における長調の主音に対し,3度下の音を主音とすることで得られる.

 

以上により以下の公式が得られる.

ド~シに0,1,2,3,4,5,6という数字を割り当てたとき,(n=0,1,2,3,4,5,6,7)

(i)#がn個付いている場合

4n(mod.7)を主音とする長調になり,4n-2(mod.7)を主音とする短調となる.

(ii)♭がn個付いている場合

3n(mod.7)を主音とする長調になり,3n-2(mod.7)を主音とする短調となる.

 

(memo)

実際は主音の二度下の音を半音上げ導音にした和声的短音階や,導音の二度下の音も半音上げた旋律的短音階が使われることも多い.

 

3:2音の音程

以下では長調の主音を1とし,1,2,3,4,5,6,7と音に数字をつけておく.

1度:同じ音なので完全1度のみだが,臨時記号が付くと「増1度」となる.

2度:半音離れるか,全音離れるか,である.前者なら短2度,後者なら長2度となる.

具体的には3,4と7,8が短2度であり,それ以外が長2度となる.

3度:全音が2つ挟まれるか,全音1つと半音が1つ挟まれるか,である.前者を長3度,後者を短3度という.具体的には1,3と4,6と5,7が長3度である.(短2度が含まれないもの) それ以外が短3度である.

4度:全音が2つと半音が1つ挟まれるか,全音が3つ挟まれるかである.前者を完全4度といい,後者を増4度という.増4度は4,7のペアのみであり,それ以外は全て完全4度である.

5度:全音が3つと半音が1つ挟まれるか,全音が2つと半音が2つ挟まれるかである.前者を完全5度といい,後者を減5度という.減5度は7,4(11)のペアのみである.

6度:全音4つと半音1つ挟まれるか,全音3つと半音2つが挟まれるかである.3,1(8)と6と4(11)と7と5(12)が短6度で,それ以外が長6度である.これは記憶する必要はなく,3度のケースを転回して考えれば良い.(後述する)

7度:全音5つと半音1つか,全音4つと半音2つが含まれるかである.4,10と8,14が長7度であり,それ以外が短7度となる.これも2度を展開して考えれば良い.

 

(memo)

・増音程のことを英語でaugmented interval,減音程のことをdiminished intervalという.

・「長」,「短」とは,長音階,短音階由来である.それぞれの主音を1としたときの3度,6度,7度の関係を長,短と名づけている.

・長では全全半全全全半,短では全半全全半全全だが,1度,4度,5度,8度の関係はどちらも変わらない.このことから(も?)これらには「完全」という名前がつけられている.

・2音の音程が協和,不協和とされるかは学説によって異なる.一般に完全系は協和音とされ,7度および2度は不協和とされることも多い.3度,6度は場合による,ということである.

 

4:音程の転回

音程関係にある2つの音の低い方を1オクターブ上げるか,高い方の音を1オクターブ下げて新しい音程を作ることを音程の転回という.

1オクターブ内には全音が5つ,半音が2つ含まれており,ドとミのペアを考え,例えば「ド」を1オクターブ上げるもしくは下げることを考えるならば,ドレミファソラシドという配列を考えた時,低いドとミの間に含まれる全音と半音の数と,高いドとミの間に含まれる全音と半音の数の和は全音が5つと半音が2つである.また,低いドとミの度数は3度,高いドのミの度数は6度で,和は9である.

以上の考察は,転回する音を両端に配置することによって容易に一般化される.以上の考察により,転回する音をA(高い方をA,低い方をaとする),そうでない音をBとすると,(A,B)と(a,B)に含まれる全音と半音の数の和は一定であり,AとBの度数と,aとBの度数の和は9となることがわかる.

次に度数のペアについて考えてみよう.ペアとして有りうるのは,(1,8)(2,7)(3,6)(4,5)である.

以下では(A,B)と(a,B)に含まれる全音と半音の数の和は一定であるということを利用している.

(i)(1,8)…完全1度を転回することで完全8度となる.

(ii)(2,7)…長2度を転回することで,短7度となる.短2度を転回することで,長7度となる.

(iii)(3,6)…長3度を転回することで,短6度となる.短3度を転回することで,長6度となる.

(iv)(4,5)…完全4度を転回することで,完全5度となる.増4度を転回することで,減5度となる.

また,以上の操作は可逆である.

 

以上の操作により,「長音程は転回することで短音程へ,完全音程は展開しても完全音程のまま,増音程は転回することで減音程へ」となることがわかった.

よって実質的には2度,3度,4度の関係さえ把握しておけば,転回の考え方を用いることで,すべての音程の関係を得ることができることが分かった.